立法の過誤と遡及立法―大槌町条例未公布問題に寄せて

 要旨

議会で議決された条例を首長が公布せず施行日を徒過してしまった場合において、同様な内容の条例を、所要の措置を講じ、改めて議会の議決を経た上で公布すれば、本来施行日となるはずであった日に遡って条例を適用することができるものと考えられる。

1 問題の所在

 岩手県大槌町は、令和2年4月から令和3年9月の間、町議会が議決した条例46件と町長が決裁した規則36件を公布していなかったとのことである*1

 条例は、首長又は議会の議員によって議会への議案提出がなされ*2、出席議員の過半数で決して成立する*3。議会の議決後、議長は議決された条例を首長に送付し*4、首長はその送付を受けた後20日以内にその条例を公布しなければならない*5。公布の方法については、その自治体の公告式条例で定められており*6大槌町公告式条例では、町長が署名し、掲示場に掲示することとなっている。

 条例は、公布によって条例としての効力が生じるところであり*7、条例を令和3年11月に公布したのならば、令和3年11月から未来に向かってしかその条例の効力は生じなさそうである。

 では、例えば、令和2年4月1日から施行する旨規定している条例に基づいて、同日以後公布日前に行政処分を行った場合、その行政処分の効力はどうなってしまうのであろうか?その効力を生かす方法はないのだろうか?

 このような問題について、行政法学・租税法学の学説や立法例・裁判例を参照しながら考えていくこととする。

 

2 遡及立法の許否について

⑴ 遡及立法とは?

 法令は、公布の手続を経て施行されることになる。「施行」とは、法令の規定の効力が現実に一般的に発動し、作用することをいう。先に述べた「条例としての効力が生じる」とは「施行」のことである。「施行」と似た概念に「適用」がある。「適用」とは、法令の規定が、個別的、具体的に特定の人、特定の地域、特定の事項について現実に発動し、作用することをいう*8

 法令は、施行されると同時に、原則として、現実の事象に発揮することになるが、その効力は、法施行の時点以後の事象に対して生じる。すなわち、法律は将来に向かって適用されるものである。しかし、例外的に、過去の時点にまで遡り、過去の事例に対して適用されることがある。これを「遡及適用」という*9。遡及適用する立法措置を「遡及立法」という。

 遡及立法が許されるのならば、未公布であった条例を本来施行期日とするはずであった日に遡って適用することができる。ここでは、遡及立法がどのような場合に許されるのか、検討していく。

⑵ 刑罰法令以外の遡及立法

 日本国憲法第39条では、「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。」と規定されている。では、刑罰法令でなければ遡及立法は可能か。このことに係る行政法学・租税法学の学説や裁判例は多数あるが*10、ここでは、上記の問題を念頭に、私の目を引いたものを紹介したい。

ア 学説

(ア) 田中二郎の見解(行政法・租税法)

 行政法規の遡及適用を認めることは、一般的には、法治主義の原理に反し、個人の権利・自由に不当の侵害を加え、法律生活の安定を脅かすことになるのであって、これを一般的に是認することはできない。従って、それは、そうしたことの予測可能性(Berechenbarkeit)を前提とし、しかも、個人の権利・自由の合理的保障の要求と実質的に調和し得る限りにおいてのみ許されるものと解すべきであろうと思う。*11

 法律の制定又は改正がつとに予定されており、従って一般にも予測可能性が存し、著しく法的安定を害すると納税者に著しく不当な影響を与えるというような結果をきたさない範囲内において、遡及効を認めることが許されると解してよいであろう。*12

(イ) 碓井光明の見解(租税法)

 民主主義的租税法律主義観を強調するならば、租税法律の遡及は、一般的に禁止されるのではなく、著しく不合理な場合に租税立法権の濫用になり許されない、とする考え方も可能なように思われる*13

(ウ) 渕圭吾の見解(租税法)

 国家による意思決定と時間に関する最も基本的な問題は、国会が立法という形式で行う意思決定が時間的にどこまでの範囲の事項について規律できるか、ということである。遡及立法に即して言えば、どのような遡及立法であれば、立法府の立法管轄権の範囲内のものとして許されるのか、ということである。

 まずは、立法府の構成員の同一性あるいは選挙民の同一性が基準となる。

 次に,規律の対象となっている事柄の性質や、存在している情報によって、遡及やエントレンチメントが許される場合がありうる。

 明らかに誤った内容の租税立法について過去に遡って規定しなおすということも、許されてしかるべきだろう。この場合には、議会が丹念に審議していたとすればこのような不合理なルールを作ったはずがない、ということから遡及が正当化されよう。*14

イ 裁判例

 条例は、大別すると、住民の不利益とならないもの(住民の利益を直接変動させないもの(課室設置条例*15基金設置条例*16など)又は住民の利益(負担軽減など)となるもの)と、住民の不利益(義務・負担増大など)となるものに分類できる*17。この分類により主な裁判例を見ていくこととする。

(ア) 住民の不利益とならない条例の場合

 例えば、条例に違背し、住民に補助金を支給したり、本来の額を減じて住民から税を徴したりした場合、住民監査請求・住民訴訟において違法と判断されることがある。しかし、条例違反の財務会計行為の後に、当該財務会計行為が条例違反とならないよう条例の改正が行われた場合、改正条例が遡及適用され、当該財務会計行為を適法とすることができる。 

 最高裁平成5年5月27日判決は、条例に基づかない町職員の特別昇給措置につき、この特別昇給措置と同様の措置を条例改正で定め、条例改正前の特別昇給措置に基づく給与の支給を改正後の条例に基づく給与の内払いとみなす規定を設けた場合、「町議会は、改正条例の制定によって、上告人(町長)のした本件特別調整及びこれに基づく増額給料分の支給の各行為自体を是認し、これをさかのぼって適法なものとしたものと解するのが相当である。」とした。

 自治体職員の利益となる給与条例の改正ですら遡及立法が認められるのであるから、住民の利益となる条例であれば、なおさら条例欠缺の瑕疵は遡及立法により治癒されるものと思われる。

(イ) 住民に不利益となる条例の場合

 法律で一旦定められた財産権の内容が事後の法律により変更されることによって法的安定に影響が及び得る場合における当該変更の憲法適合性については、当該財産権の性質、その内容を変更する程度及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって判断すべきものであり(最高裁昭和53年7月12日判決最高裁平成23年9月22日判決)、財産権を制約する行政法規の遡及立法が公共の福祉に反するか否かについても、同様に判断すべきものと解される*18

ウ 立法例*19

 船橋市は、船橋市議会平成29年第1回定例会での議決を経て税条例の改正を行った。しかし、その税条例改正においては、平成29年4月に予定されていた消費税増税等の延期により、同年4月以降、資本金等の額が1億円以下の法人に適用する法人税割の税率を9.7パーセントに改正すべきところ、改正漏れにより、約8.6パーセントとなっていた。 

 改正漏れが明らかになって以降、船橋市では、最高裁判所判例有識者の見解などを踏まえて条例改正案を立案の上、市議会に提出し、平成29年12月22日の市議会において、税率を9.7パーセントに改正し、同年4月1日に遡って適用する内容の条例が原案のとおり議決された*20

 平成29年12月6日に開かれた船橋市議会総務委員会参考人として招致された元裁判官の西口元は、最高裁昭和53年7月12日判決から考慮要素として①変更される財産権の性質、②財産権の変更の程度、③保護される公益の性質という3要素を抽出し、その3要素を総合的に勘案し、この遡及立法である市税条例改正を適法なものと評価した。

エ 小括

 以上の学説・裁判例などを踏まえ、大槌町の未公布であった条例を遡及立法により過去の事項に適用することができるか、検討することとする。なお、1番のハードケースと思われる、住民に不利益となる税条例改正条例に限定しての検討とする。まずは、西口に倣い最高裁昭和53年判決の3要素に沿ってざっくり考えていきたい。

 ①「変更される財産権の性質」:首長が条例を公布せず効力を生じさせなかったというミスにより生じた、負担増となる前の条例により税が賦課徴収されるという利益である。西口の言葉を借りれば「棚ぼた式の利益」であり、保護する必要性はあまり大きくないように思われる。

 ②「財産権の変更の程度」:負担増となる前の条例により賦課徴収される納税義務から、本来首長が条例を公布していれば適法に課せられる納税義務へという変更である。条例が未公布であったことを公表するまで大きく問題とされていないことからすると、町民等も改正後条例の効力が生じているものと信じて社会生活が営まれていたものと思われる。町長が行った効力未発効の改正後税条例に基づく課税処分に対し、多くの町民がそのようなものとは知らずに納税していたのではなかろうか。条例未公布の瑕疵を治癒する遡及立法は、法効果だけを見れば変動があるように見えるが、実際のところの社会生活に着目すれば、未発効の条例が発効されているものと誤信して既に行われた町長・町民の行為を、巻き戻すことなく後付けするという性質が強い。受容できないほどの過大な変更ということはできないように思われる*21

 ③「保護される公益の性質」:税は大槌町政を運営する上での財源となっており、これが減少した場合には町政運営に支障をきたすおそれがないとはいえない。また、議会の審議により決められた町民の負担分配であり、これを実現しないと税の公正を揺るがしかねない。遡及立法により保護される公益は、非常に重大なものであると考えられる。

 このように①②③の要素を総合的に考慮すれば、住民の不利益となる税条例改正であっても遡及立法を行うことは、判例法理に反することにならないものと考えられる。

 また、住民の「予測可能性」を重視する田中の見解によっても、①条例案の審議が秘密会で行われたわけではなく、知り得る状態でなされたこと、②税条例に限った話になるが、税条例の枠組となる地方税法*22は公布され、広く周知されていることに鑑みれば、税条例改正の遡及立法は、住民にとって予測可能なものであり、許容されると思われる。

 議会の意思・権限に焦点を当てた碓井・渕の見解によっても、議会が可決して首長に送付した条例が、首長が公布しなかったために条例内で規定する施行期日から効力が生じなかったことは、議会の意思が首長の不作為により阻害されたと評価すべきであり、可決した条例で規定されている施行期日から条例を適用することが議会の意思であるのだから、遡及立法は認められると思われる。

 以上のとおり、いずれの立場をとったとしても、遡及立法により未公布であった改正税条例を過去の事項に適用できるようにすることは、許されるものと思われる。

 

3 遡及立法の方法

 条例の公布漏れを遡及立法により治癒する場合、その方法はどのようなものか?これにつき、条例の公布漏れが稀なこともあってか、確立した方法はないように思われる。 

 ここでは、実際に大槌町長がとった方法をまず検討し、次いで私が思いついた方法を示したい。

⑴ 公布による方法

 大槌町長は、未公布であった条例・規則を令和3年11月に公布したとのことである。

 国においては、法令に指定した施行期日よりも後になって公布になった場合に、その施行期日とされた日にさかのぼって適用する趣旨だと考えるのが適当な場合もあろうとのことで、公布日と施行期日が前後する例があった(戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部を改正する法律(昭和28年法律第181号):公布日/昭和28年8月7日 施行日/昭和28年8月1日、国税通則法(昭和37年法律第66号):公布日/昭和37年4月2日 施行日/昭和37年4月1日)*23 *24

 既になされた議決により議会の意思は明らかであり、また、後に述べる法制執務・立法技術上の混乱はあるものの、条例公布までの経過等を踏まえた合理的解釈*25によりその混乱は乗り越えられなくもないようであることを思えば、あるいは首長の公布によってのみの遡及立法という方法もあり得るのかもしれない。

⑵ 条例改正による方法

 大槌町長が実際にとった方法につき、それでもなお私は「これでいいのだろうか?」というちゅうちょを覚えざるを得ない。

 まず感じたのは、小役人的感覚ではあるが、裁判所ならぬ首長が、いくら議会の意思が明白だからといって、「これが議会の意思である。」と宣明するかのように見えることをして良いかという疑問である。議員が集まる議会を前にしてこのような宣明を行うことに畏れをどうしても感じてしまう。

 次いで考えたのは、法制執務・立法技術上の混乱である。実際に公布された条例を見たわけではないので想像にはなるのだが、公布を行う際に条例の文言を変えることはできないので、議決された条例がそのまま公布されたのだと思う。そうだとすると次のようなことをどのように考えるべきか疑問が浮かんでくる。

  • 「公布の日から施行する。」と規定し、次条(項)以後の経過規定で「施行の日」という用語を使っている場合、公布の日は令和3年11月?日になるが、それはそのままでいいのか?
  • 地方税法等の一部を改正する法律(令和3年法律第7号)第5条により地方税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第5号)の一部改正が行われており、地方税法第321条の8内で項の追加があるが、それに対応する条例改正を行っている場合、改正される税条例改正条例の条例番号*26はどうなっているのか?令和2年条例第X号?令和3年条例第Y号?
  • 地方税法附則第15条を受けて定める税条例の規定は、複数回改正されているはずだが、その複数の改正条例を同日公布・同日施行とした場合、当該規定は上手く改正されるのか?

 加えて、最高裁判決で遡及立法が是認された法令では、適用対象を明示する附則の規定があるところ、そのような規定を設けなくてよいのか?という疑問が湧く。この疑問に対して「設けなくてよい。」と自信を持って私は答えることができない。

 そのため、議会の議決を改めて経た上で条例を公布する方法のほうが、違法とされるリスクは小さいものと私は考える。

 

4 遡及立法前の行政処分の効力

 遡及立法の方法につき、首長が未公布条例を公布しただけでは条例欠缺の瑕疵は治癒されないと考えた場合、未公布条例に基づく行政処分の効力をどのように考えるべきであろうか。

 この点、最高裁昭和25年10月10日判決では、「改正前の条例によると、改正後の条例によるとは、税率、賦課金額の相違を来すのみである。行政処分が法令に違背して行われたからと言つて、直ちに当然にその行政処分が無効であるとは言えないのであつて、本件のような違法は本件賦課処分を法律上当然に無効ならしめるものではないとするを相当とする。」と判断されている。すなわち、当該行政処分には、仮に違法であっても、取消権限のある者によって取り消されるまでは、何人(私人、裁判所、行政庁)もその効果を否定することはできない、という「公定力」*27があるということになろう*28

 そして、最高裁昭和50年4月30日判決では、「本件許可申請は所論の改正法施行の日の前日に受理されたというのであり、被上告人が改正法に基づく許可条件に関する基準を定める条例の施行をまつて右申請に対する処理をしたからといつて、これを違法とすべき理由はない。」と判断されているところであり、条例改正による遡及立法が行われる見込みがあるのならば、審査請求に対する裁決等を、条例改正が行われるまで留保することも可能と思われる*29

 

5 遡及立法の私案

 私は、条例未公布問題について、条例改正による遡及立法を行っての瑕疵の治癒が望ましいと考えているが、いざ、どのような案文になるかを考えると、内閣法制局などが築いてきた立法技術の慣行に沿ったものを書くことは不可能に思えてきた。例えば、既に過去になった施行期日を変えることができるか、一度付された法令番号を変えることができるか、などは、立法技術の慣行から考えればあり得ない問いということになろう。立法技術の慣行は、「法令が公布されず、施行期日を過ぎ、しばらくして公布する」という事態を想定して築かれていないためであろう。

 ここでは、「文理上の混乱をできるだけ抑え、遡及適用がなされることを明らかにした上で、遡及適用を可とする議会の意思表示を得る。」という目的を実現するためにはどのような案文が必要となるか、税条例改正条例の附則を念頭にして私案(試案)を示すこととする。

 まず、施行期日の条を改正し、遡及適用があることを明示することが必要に思われる。以下の案文は、一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律(昭和48年法律第95号)附則第1項及び第2項を参考に作成した。

 (施行期日等)

第1条 この条例は、公布の日から施行し、この条例による改正後の税条例の規定は、別段の定めがあるものを除き、令和X年X月X日(以下「適用日」という。)<本来施行期日とすべきであった日>から適用する。

  • 複数の条例により改正がある場合は、「公布の日」を「公布の日の翌日」・「公布の日の2日後」・・・と規定し、施行期日をずらし、改正の順番付けを行う。
  • 第2条以下で「別段の定めがあるものを除き」とある場合は、第2条以下のほうを「次条以下において別段の定めがある場合を除き」として、同内容の規定が衝突するのを防ぐ(第2条以下を優先して適用する。)。
  • 第2条以下の「施行の日」・「施行日」は、「適用日」に改める。

 そのほか、未公布の条例を効力が生じていると誤信して行われた行政処分等を、後付けで正当なものとする条文も必要となると思われる。以下の案文は、特定非営利活動促進法の一部を改正する法律(平成28年法律第70号)附則第12条を参考に作成した。

 (処分等の効力)

第X条 この条例の適用日前において、改正後の税条例が適用日から適用されるものとして既になされた処分、手続その他の行為は、この附則に別段の定めがあるものを除き、改正後の税条例の規定によってなされたものとみなす。

 

6 結びに代えて

 私には、基礎自治体において例規審査業務に携わった経験が多少あるのみである。その私が書いたこの記事には、多くの誤りが含まれているものと思われる。しかし、この記事が叩き台となり、よりよい解決策が見出されれば幸いである*30

 

 

 

 

 

*1:大槌町、条例・規則を公布せず 1年半で82件:朝日新聞デジタル 2022年2月11日

*2:地方自治法第96条第1項第1号、第149条第1号及び第112条第1項

*3:地方自治法第116条第1項

*4:地方自治法第16条第1項

*5:地方自治法第16条第2項

*6:地方自治法第16条第4項

*7:最高裁昭和25年10月10日判決。国の法令について最高裁昭和32年12月28日判決

*8:法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務 第2版』18頁・34頁

*9:『新訂 ワークブック法制執務 第2版』284頁

*10:学説や裁判例は、齋藤 健一郎「遡及立法における経過規定の解釈問題 ―― 裁判例の総合的分析」岩﨑政明「租税法規の遡及立法の可否 ―租税公平主義の視角を加えた許容範囲の検討―」 が詳細に分析をしている。

*11:田中二郎行政法総論』165頁

*12:田中二郎『租税法』81頁

*13:碓井光明「租税法規不遡及原則の再検討」税49巻4号4頁

*14:渕圭吾「租税法律主義と「遡及立法」」117頁

*15:地方自治法第158条第1項

*16:地方自治法第241条第1項

*17:税条例改正条例のように混在するものもある。例えば、令和2年度税制改正に伴う税条例改正条例では、新たに創設された固定資産税等の特例措置に係る課税標準価格軽減割合を定める規定は住民の利益となるものであろうが、軽量な葉巻たばこの課税方式の見直しに係る規定は住民の不利益となるものであろう。

*18:東京地裁令和元年12月26日判決

*19:なお、平成25年に所得税法改正法と税制改正大綱とに齟齬が生じた際は遡及立法がされなかった。

*20:「お詫び」条例改正漏れのあった市税条例の規定を改正し、平成29年4月に遡って適用します:船橋市のウェブページ

*21:最高裁平成23年判決が「納税者の納税義務」と「納税者が期待し得る地位」を区別していることには留意が必要である。変動が許されない「納税者の納税義務」の意義であるが、「法律で一旦定められた財産権の内容」という言葉からすると、課税処分を待つことなく、特定時点における有効な法令(本件でいえば改正前税条例)により自動的に定められる納税義務のことを指すようにも読める。しかし、「納税者の」納税義務という言葉や、主観訴訟において個々人に属する「財産権」の保護の問題としていること(個人の権利救済が主目的であって、行政機関の客観的コンプライアンスが主目的ではないこと)、審査請求等で争われているのでなければ、実際に出された課税処分でいくら払うのかこそが個人にとっての大きな関心事項であることからすると、課税処分により定められた個々人の具体的な納税義務が、変動の許されないものと考えるべきではなかろうか。この点、遡及立法を、憲法地方税法上の問題ではなく、信頼保護の問題であり国家賠償請求の問題とする渕前掲論文102頁の見解であれば、信頼の基礎となる、実際に行われた課税処分により生じた納税義務にこそ着目すべき、となるように思われる。2022.3.23追記。//改めて読み返してみると、最高裁平成23年判決の読み方として、法律により定まる納税義務と賦課通知された納税義務を分けて考えるのには無理があるように思えてきた。ただし、法律により定まる納税義務と賦課通知された納税義務に齟齬が生じる公布漏れを最高裁が想定していたとは考えられず、最高裁平成23年判決は、本文中のような納税義務の変更をも認めないという趣旨ではないと思う。2022.11.2追記

*22:宇賀克也『地方自治法概説 第7版』169頁は地方税法地方税の枠組みを定めた枠組法ないしは準則法と位置付けている。

*23:佐藤達夫法制執務提要 第2次改訂新版』331頁

*24:平成20年・21年のねじれ国会においては、別途立法措置を講じたり(国民生活等の混乱を回避するための地方税法の一部を改正する法律)、法律案を修正したり(道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案)して対応されていた。

*25:青森地裁昭和25年6月15日判決では、条例の告示が条例中に定められた施行期日後に右施行期日の日附でなされた場合には、右条例は、告示と同時に条例中に定められた施行期日に遡及してその効力を発生する旨の判断が行われている。2023.3.26追記

*26:条例番号は、暦年ごとに公布の際に付けられる。石毛正純『法制執務詳解 新版Ⅱ』35頁

*27:塩野宏行政法Ⅰ[第6版]行政法総論』160頁

*28:なお、最高裁昭和25年判決は、税条例改正条例に係る事案であるが、新規制定条例に基づく行政処分であっても、単に条例が未公布のため効力が生じていない場合は、条例が議会で議決されていること、遡及立法により瑕疵が治癒されるものであることに鑑み、取消事由を抱える行政処分ではあっても無効なものとはいえないものと思われる。

*29:最高裁昭和50年判決を引用しつつ、許可処分を遅らせ、改正後の法令を適用して行われた不許可処分を違法とした神戸地裁平成元年9月25日判決(判例タイムズ719号145頁)がある。神戸地裁判決の論を首肯するとしても、上述のとおり未公布条例の遡及立法及び遡及適用が認められるとするならば、「申請人の地位の侵害を正当化するだけの公益上の強い必要性」はあると考えられる。

*30:なお、私と異なる見解をとるものとして、源法律研修所「未公布条例の施行・適用!? <追記>」がある。大槌町条例未公布問題自体を論じたものではないが、hoti-ak「施行日までに公布されなかった例規の施行日はどうなるか」、改正漏れの遡及適用について、kei-zu「改正漏れの遡及適用」、「改正漏れ」、「遡及適用の可否」、「続・遡及適用の可否」、「続々・遡及適用の可否」、hoti-ak「遡及適用(上)」、「遡及適用(下)」、若年寄の遺言「遡及適用、できる?できない?していいの?だめなの?」も参照した。2022.3.23追記。

太田幸夫「税条例における税率の誤記を遡及的に是正できるか?―法制実務及び日米判例を参考にして―」も参照した。2023.3.27追記